374: 名無し三等兵 世界の艦船 2002年7月号 田中知之「八重の潮路の果てに 第1期海軍兵科予備学生の記録<19>」より引用 チモール島の海軍第4警備隊の野中大尉、堀大尉が終戦でオーストラリア軍の 捕虜になったときの話。 ただ一つ救いだったことは、彼らの収容所に現地人の襲撃がただの一度もなかった ことであった。そればかりか夕暮れ時になると、鉄条網越しにバナナやマンゴーや 鶏までも差し入れて力づけてくれる村人たちも少なくなかった。この村人たちと 隊員たちとは、占領軍と被占領地の住民の関係ではなかったのである。石を投げられ、 罵声を浴びせられ、唾を吐きかけられることまでも覚悟していたほどなのに、予期 しない村人からの差し入れを受けて、髭づらの下士官が大急ぎで兵舎に戻って役に 立ちそうな新しい衣類などをお礼に渡しながら眼をうるませている光景を、野中大尉 はしばしば目にした。 「オーストラリア軍に見つかると大変だぞ」 と注意しても、村人たちは聞かなかった。 続きを読む