転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489927395/ 1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/19(日) 21:43:15.85 ID:3wbvbtx40 「愛とはな、人が人を慈しむ……ようなことなんだ!」 「ような、って」 だいたい、愛するも慈しむも意味が被ってしまってる。 薄汚れた壁、ボロボロのブラインド、狭っくるしい部屋の真ん中に一つだけ大きなソファー。ひび割れている。 壁にかかってる時計もそばに転がってるスマホも無視してゲーム機のホーム画面から時刻を確認した。もう夕飯には遅い、確かな夜の時間だ。 彼の仕事はまだ終わらない。お腹が減ったと抗議をして飴をもらったのがもう二時間も前、そばに転がった包み紙は二桁にのぼろうとしていた。 「例えばそう、杏は俺のために仕事をがんばろうと思うだろう?」 「うーん」 「愛だ!」 「じゃあそれでいいや」 きっと、仕事のし過ぎで頭がおかしくなったんだろう。こういうのは稀によくある。 夜に近づけば近づくほど、彼はいい加減な話を一人で始める。それもテーマが壮大なのを選ぶからタチが悪い。何のために生きるのかとか、心とは何かとか、さっきの愛の話なんて彼の十八番だ。聞くたびにそれは実体が変わる。 こないだの愛は確か性欲だった。じゃあプロデューサーは杏のこと愛してるんだねっておどけてみせたらなんか凄くテンパってて身の危険を感じた。 2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/19(日) 21:44:41.73 ID:3wbvbtx40 「今日は遅くなるぞ」 寝返りを打つと、擦れた音は思ったより部屋に響いた。一人で帰るのはめんどくさいし、家に早く帰ったとこでベットでゲームするだけだろう。 無言をどんな風に受け取ったかは分からないけど、彼は黙々と作業に戻る。気にしないよ、とぐらいは言ってあげるべきだったのかもしれない。もしくは気にしてると言って罪悪感を与え、優位に立つべきだったかも。勝手に待ってるのはこっちなのに、彼はきっと飴玉をもう一袋くらい出してくれるはずだ。 「杏がこうやって待ってくれてるのも、愛かもなぁ」 「似てない真似はやめろよ」 「そうだなぁ、俺も誠意をもって有給で応えてあげないとなぁ」 遠くでエンジンの声が唸っている。 彼がため息と共にパソコンを閉じて立ち上がる。 それを見て杏もゴロゴロとソファーから床に滑り落ちた。ついでに起き上がるつもりだったが失敗だ。彼が冷めた目でこちらを見ている。 「明日はさ、愛ってどんなのになるの?」 雑に引っ張り上げられた瞬間、持ち前の運動能力で背中をとった。 仕事はいいのかなんて野暮なことは聞くもんか。代わりに、彼に散らばったスマホやゲーム機の回収を命じることにした。 続きを読む