転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467989227/ 1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/08(金) 23:47:07.82 ID:VIewv/f70 どうしても合わない人間ってのはいるもんだ。 価値観、人間性、思考の違い……なんて言えば最もらしく聞こえるが、何てことはない。 どんな理由をつけたって、合わないものは合わないのだ。 社会ではそうした人と嫌でも付き合わなければならず、ストレスは産まれるし悩みもする。こんな言葉は誰もが聞き飽きたことだろう。 それでも、辟易するくらいに繰り返されてきたこのフレーズを実感するのは、嘘でも自分なりに人生を歩んできたからなのかもしれない。 僕にとって初めての『合わない人間』は、仕事上でのパートナーだった。 彼女は人当たりが良く、相手の感情を読み、合理的で、気持ちのいいくらい自分本位の性格をしていた。 これ以上なくワガママに生きている彼女のことを僕は羨ましく、同時にこの上なく厄介にも感じた。 そんな空気を感じ取ってこちらに深く踏み込んで来なかった聡さも気に食わないくらいに、僕は彼女とは合わなかった。 彼女はアイドル。そして僕はプロデューサーだった。 2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/08(金) 23:55:04.17 ID:VIewv/f70 彼女の褒め言葉はたくさん出てくる。そして、悪口も負けないくらいに出てくる。 その中には僕の穿った観点から生まれるものもあるが、一つだけ確かなのは、仕事に関して彼女はあまりにも不誠実だったということだ。 「怠けたい」から始まる矛盾した彼女の仕事への動機は、彼女を頑張らせれば頑張らす程に楔を打ち込んでくる。 いくら僕が奮い立たせようとも、風になびくように彼女は躱す。それでいてアイドルとしての才能はピカイチだからたちが悪い。 新米の僕にとって、彼女をプロデュースすることは水を手で掬うのと同じだった。 そして当然、僕の隙間だらけの手のひらから彼女はしくしくと溢れていった。 3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/09(土) 00:03:07.41 ID:Px08eZlJ0 ☆ 彼のことは好きだった。 それはもしかしたら恋愛感情だったかもしれない。 ただ、そもそも恋愛ということに程遠い杏にはその想いに名前を付けることは難しい。 結局、友達としての好きだった、ぐらいにしとくのが無難だと思う。 杏はその程度には彼のことが好きだったけど、相手はどうもそうではなかったらしい。 まぁ、そりゃそうだ。杏とはまるでキャラクターが違い過ぎる。 こんなにも真反対の人間がいるのかというくらいに彼は真面目で一生懸命に生きていたし、怠惰が付け入る隙なんて無かった。 だから杏は深くは入り込まず、それでもギリギリのラインまで甘えて、甘え尽くす。 彼と杏の関係は透明な薄い膜に覆われていた。 続きを読む