転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1505741620/ 1: ◆8ozqV8dCI2 2017/09/18(月) 22:33:40.04 ID:n8F8dLyB0 夢を見た。 一人の少女の夢だ。 少女が憧れたものはキラキラのステージ、オシャレな衣装、響く歌声、鳴り止まぬ歓声。 一目見た時から、少女はアイドルに憧れていた。 そんな少女の憧れが形となったのはつい最近のこと。 たまたま彼女を知ったアイドル事務所のプロデューサーが彼女をスカウトしたことで、彼女は念願のアイドルとしての一歩を踏み出した。 動き出した日常は目まぐるしく、しかしプロデューサーや事務所の仲間だけでなく、ファンからの手助けを受けながら彼女は日々を笑顔で過ごしていた。 それは本当に嬉しくて、楽しくて、どうしようもなく幸せな毎日で。 だから彼女は涙を流しながらこう言った。 「さようなら」 「え……」 その日プロデューサーはいつもより早く目を覚ました。 なぜ自分が泣いているのかはわからなかった。 2: ◆8ozqV8dCI2 2017/09/18(月) 22:34:54.29 ID:n8F8dLyB0 「不思議な夢、ですか?」 千川ちひろは事務所で仕事をしながら、プロデューサーと雑談に興じていた。 なんでもプロデューサーは不思議な夢を見たらしい。 「いや、不思議な夢を見た気がするってだけです。どんな夢だったかもまったくわからなくて」 「はあ」 夢を見た感覚はあるけど、内容を覚えていないというのはよくあることだ。 そういう日は朝からなんとももやもやした気分で過ごすはめになる。 ちひろの経験則からすると、一度忘れた夢を思い出すのは困難だ。 「そんな時は気分転換した方がいいですよ。リラックスして他のことをやっていたら、ふいに思い出したりするかもしれませんし」 「そう、ですよね」 ちひろのアドバイスにプロデューサーは歯切れの悪い返事を返す。 これは長引きそうだと思いつつも、ちひろは彼のためにお茶を淹れてあげようと給湯室に入り。 「……あら?」 妙な違和感を覚えた。 3: ◆8ozqV8dCI2 2017/09/18(月) 22:35:46.93 ID:n8F8dLyB0 それは本当に些細で、今プロデューサーが抱えているものと大差ない感覚かもしれないが。 「私、最近プロデューサーさんにお茶淹れてましたっけ?」 昨日や一昨日の記憶を振り返っても、プロデューサーにお茶を淹れた覚えがない。 それだけでなく、自分のためにも淹れた記憶がない。 「アイドルの誰かが淹れてくれたんだったかしら?」 アイドルの中には気の利く子が多いため、誰かがちひろ達を労ってお茶を淹れてくれることは少なくない。 だからここ数日、ちひろにお茶を淹れた記憶がないことは何もおかしくない。 「誰が淹れてくれたのかを忘れてるのは問題ですよね」 しかし、人と関わる仕事柄、誰かから受けた恩は忘れないよう心掛けているちひろだ。 それなのに事務所の仲間からの親切を忘れるなんて。 いったい誰が? その後プロデューサーにお茶を渡したちひろは、プロデューサーと同じようにもやもやした気持ちで自分の席に戻っていった。 続きを読む