転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511088089/ 1 : ◆Xz5sQ/W/66 2017/11/19(日) 19:41:29.77 ID:8QMfH7fA0 === 何気ない発見だったのだ、それは。 「紗代子が眼鏡を外してる……」 プロデューサーの意外そうな一言に、高山紗代子は思わず「えっ?」と驚きの声を上げたものだ。 正に"キョトン"とした顔である。彼女は手渡された熱々のたい焼きを包み紙から少々覗かせると。 「外しますよ、それは。だって曇っちゃうじゃないですか」 カリカリに焼かれた鯛の尻尾に齧りつく。 生地と餡から立ちのぼるかぐわしい湯気からレンズを守るため、 彼女の空いた手には愛用の眼鏡が握られていた。 2 : ◆Xz5sQ/W/66 2017/11/19(日) 19:43:02.72 ID:8QMfH7fA0 紗代子はその手をヒラヒラと軽く動かして、支払いを済ました男に言う。 「ラーメンとかと同じですよ」 「ああ、アレも曇るもんな」 「まあ麺類に限った話じゃないですけど……」 「あったかい物は大体そうか」 「大体ですね」 「じゃ、この時期はしょっちゅう大変だなぁ……寒いからさ」 木枯らし吹きつける児童公園。厚着をした小学生たちが元気に鬼ごっこをしている姿を眺めながら二人はベンチに腰かけた。 「俺さ、運動する時やライブの時しか外さないもんだと思ってた」 「……あー」 プロデューサーにそう言われ、紗代子は心当たりを思い出すように視線を冬の空へ向ける。 「ですね。落っことしちゃうかもしれませんし、そのまま壊しちゃったりとか」 「最低限の危機管理か」 「これが無くちゃ、普段の生活もままならなくなっちゃいますからね……だから大事にしてますよ?」 3 : ◆Xz5sQ/W/66 2017/11/19(日) 19:45:47.24 ID:8QMfH7fA0 そうして紗代子は微笑むと。 「それに、安い物でもないですし」 「至言だな。俺もこのコートとは数年来の付き合いで――」 「だからって、プロデューサーみたいにケチケチしてるワケじゃありません。 そのコート、もう随分くたびれて見えますけど……買い替える予定とかはないんですか?」 言って、たい焼きをまたひと齧り。男は恥ずかしそうに頬を掻き、 「しかしな、愛着があるんだコイツには」と笑い返す。 彼の着ているコートは紗代子が指摘した通り、幾年もの冬を越えたツワモノの色味を放っていた。 ……つまり色褪せ擦り切れボロボロの、古びたコートだったのだ。 「ついでに言うと、金もない」 「……だと思ってました」 予想通りの一言に紗代子は肩をすくめると、公園の入り口に陣取る屋台に目をやった。 仕事終わりの帰り道、男から「腹減ったろ?」と奢ってもらったばかりの店である。 さらには自分の手元にあるたい焼きと、男の傍らに置かれたお土産の入ったビニール袋 (中身はたこ焼きとたい焼きの詰め合わせだ)を一瞥し。 続きを読む