転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1506254315/ 1 : ◆Hnf2jpSB.k 2017/09/24(日) 20:58:35.39 ID:GvQ4uuQzo ・地の文 ・非一人称 ・モチーフあり よろしければお付き合いください 2 : ◆Hnf2jpSB.k 2017/09/24(日) 20:59:36.81 ID:GvQ4uuQzo 「アイドルに興味はありませんか?」 彼女がその言葉の意味を理解するまで、少なくない時間を要した。 金の髪に白い肌を持つ女性は、けれど、日本語が分からないわけではない。 むしろ、母国語と言っていいほど日本語に精通していた。 だから、かけられた言葉の意味が分からないわけではない。 何故自分にその言葉がかけられたのか。 それが分からなかった。 「私が……アイドルに、ですか……?」 聞き返す声に疑わしげな色が混ざるのも当然だろう。 男が投げかけた問いは、それほど場違いなものだったのだ。 少なくとも、修道服に身を包んだ相手にかけるものとしては。 3 : ◆Hnf2jpSB.k 2017/09/24(日) 21:00:50.51 ID:GvQ4uuQzo *************************** その教会は、住宅街に溶け込むようにして存在している。 それほど大きいわけでもなく、特別目を引くようなものもない。 ただ静かにそこにあって、人々を受け入れていた。 訪れる人は祈りを捧げ、神との対話に時を過ごす……訳ではなかった。 そうする人がいないわけではなかったが、その数は決して多くない。 おおよその人は、憩いの場として教会を訪ね、世間話をし、時にお茶を飲んで帰っていった。 クラリスが所属するのは、そんな教会だった。 本来あるべき姿とは少しばかり遠いところにあったが、クラリスはそんな教会が好きだった。 地域の人々と共に在り、のんびりと時を過ごす。 相談を持ちかけられたなら、神の教えを通じて肩の荷を軽くする手伝いをする。 機会があって聖歌を披露してからは、子ども達に歌を教えるようにもなった。 憧れの眼差しに面映い思いをしながら、それでも誠心誠意務めてきた。 子ども達の素直さ、無邪気さに触れるうち、クラリス自身の背筋が伸びていくようだった。 4 : ◆Hnf2jpSB.k 2017/09/24(日) 21:01:38.54 ID:GvQ4uuQzo 穏やかで、何気ない日々。 けれど、かけがえのない時間はいつまでも続かない。 財政難という、過酷で無機質な問題が目の前に横たわっていたから。 「アイドル……ですか」 先日渡された名刺を見ながら、一人呟く。 そういったものには人一倍疎いクラリスだった。 けれど、アイドルとして成功できたなら、教会の財政難を救う一助になるのでは。 そんな考えが頭をよぎる。 一方で、そのような打算的な振る舞いが許されるのかと。 心の内から非難の声が聞こえてくる。 「ふう……」 溜め息とともに視線を上げ、名刺をしまう。 そんなことをここ数日繰り返していた。 まだ、答えは出ない。 続きを読む