転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503402610/ 1 : ◆jduRT8bHyo 2017/08/22(火) 20:50:10.46 ID:Eo53XMUN0 ・未央と未央の兄の話です。 ・というわけで、オリキャラで未央の兄が出ます。 ・地の文が多いです。 ・それでもよろしければ、ぜひどうぞ。 2 : ◆jduRT8bHyo 2017/08/22(火) 20:51:44.50 ID:Eo53XMUN0 4月も半ばを過ぎた、ある日の夜。 ピンポンピンポンピンポーン、とリズミカルにチャイムが3回鳴った。 「ったく、なんだよこんな時間に……」 煙草を灰皿に押し当てて、火を消す。 時刻はすでに22時を回っている。 最近、通販であれこれ注文してはいるが、こんな時間には来ないだろう。 そもそも、宅配業者ならあんな子どもみたいなチャイム3連打はすまい。 酔っ払った大学の悪友どもだろうかと予想しつつ玄関に向かい、はいはいどちら様ですか、とドアを開けると。 「よっ、兄貴! アナタの可愛い妹、未央ちゃんが遊びにきたゾ☆」 ばちこーん、と上目遣いにウインクを飛ばしてくるその小娘の顔を見て、俺はドアノブを即座に引いた。 鍵も回す。いや、合鍵を持っているかもしれない。チェーンも掛けておくべきだな。 がちゃん。 「えっ、ちょっ、兄貴!? なんで閉めるの!? 開けてってば! あーけーてー!」 奴がガチャガチャドンドンとドアの外で騒いでいるのには構わず、俺は素早く室内へと戻った。 まずい。 非常にまずい。 あーくそッ、なんだってんだ、いきなり! 特段新しくも古くもないアパートのワンルーム、今年で住み始めて3年目、慣れ親しんだ自室の中を改めて見回す。 ベッド脇の壁、床に放り出された雑誌、ノートパソコンに取り込み中だったCD……パソコンそのものもか。 奴に見られてはまずいものがいくつかある。一番やばいのは、壁のやつか。 急がなくては……! 3 : ◆jduRT8bHyo 2017/08/22(火) 20:52:15.54 ID:Eo53XMUN0 速やかに、かつ丁寧に作業を進め、かけた時間はおおよそ3分。 緊急措置ではあるものの、我ながら、なかなかの手際だと言えるだろう。 しかし、これで一息つくわけにもいかない。 「兄貴ー! 兄貴ってばー、聞いてるー? 正真正銘の未央ちゃんだよー? 本物だよー?」 あいつ、まだ騒いでやがる……迷惑なやつめ。 再び玄関に向かう。チェーンはそのままに鍵を回してドアを開けた。 「あれっ、開けてくれた? って、チェーン掛けてるしっ。兄貴ってば、可愛い妹を邪険にしすぎじゃないの~? あ、もしかして照れちゃってるのかな? かなー?」 うぜぇ……。 今さら改めて確認するまでもなかったが、このうざさ、間違いない。 ドアの外にいるのは、俺の妹の、本田未央だ。 驚くべきことに去年、大手芸能事務所の346プロからアイドルとしてデビューし、そこそこ人気もあるらしい。 こんなうざいのに。世の中どうかしている。 まあ、あれか。うざいけど顔は可愛いし、胸もでかいから、バカな男は騙されるのだろう。 バカだなぁマジで。ほんとバカ。 で、結局のところ、この妹はなぜ今ここにいるのか。 「……何しにきたの、おまえ」 ドアの隙間越しに、さっさと帰れというニュアンスを前面に押し出しつつ尋ねると、奴はにんまりと笑みを浮かべながら言った。 「泊めて♡」 「帰れ」 4 : ◆jduRT8bHyo 2017/08/22(火) 20:53:13.44 ID:Eo53XMUN0 兄妹の情けで一応事情を聞いてやれば、レッスンに熱が入りすぎて気づけば夜、電車には間に合うけど疲れちゃったし今から千葉まで帰るの面倒だなー、 と思ったところで都内で一人暮らし中の兄のことを思い出したという、その兄であるところの俺にとっては、ただひたすら迷惑なだけの理由であった。 帰れ泊めて帰れ泊めて帰れ泊めてと不毛な争いがしばらく続いたが、しかし結局のところ、俺は押し負けることになった。 決定打は、未央が実家に電話をかけやがったことだった。 実家から十分通える大学だというのに、一人暮らしを許してもらった上に仕送りまでしてもらっている立場としては、 「未央のこと、よろしくね?」なんて言われたら断りようがない。 「うるさくするんじゃねぇぞ」 「わかってるってば」 さっきまでぎゃーぎゃー騒いでいた奴が何を言っているのか。 渋々チェーンを外してやると、奴はするりと猫みたいに部屋の中へと入り込んできた。 「あっ、こら」 「お邪魔しまーすっ。おお、これが兄貴の部屋か~」 ベッドにタンス代わりのカラーボックス、CDラックと本棚、ゴミ箱、あとはローテーブルの上にノートパソコンと灰皿。 たいして広くもない部屋だから、置いてあるものといえばその程度だ。 家を出る前の自分の部屋とも大差ないはずだが、未央はやたらと興味ありげに、きょろきょろと室内を見回している。 思えば、未央がこの部屋に入るのは、引っ越しの時に親や弟と一緒に見に来て以来だったな。 少なくとも月に1回は実家に帰っていたので、そこそこ顔を合わせてはいたのだが……なんだか、不思議な感じだ。 いや、不思議な感じだ、とか言っていられる状況ではないのだが。 ……大丈夫だよな? と、内心でほんのわずかに不安を感じていると、未央が微かに顔をしかめているのに気付いた。 続きを読む