転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503383683/ 1 : ◆TOYOUsnVr. 2017/08/22(火) 15:34:43.84 ID:ryn1QpcY0 「それ、この前の?」 ついこの前の動物モチーフのお仕事、その撮影の合間に撮った写真たちがモニター上に並んでいたから、思わずプロデューサーに声をかけた。 どうやらプロデューサーは作業に集中していたらしく、少しびくっとして振り返る。 「あ、ごめん。びっくりしたよね」 「大丈夫。うん、この前の」 「この子、かわいかったよね」 表示されているたくさんの中の一つを指で示すと、プロデューサーはそれを開いてくれた。 私と、一緒に写真を撮ってくれたオオカミの子がモニターにでかでかと表示される。 プロデューサーがマウスをかちかちと操作して、撮影時間順に写真を送っていくと、ついこの前の記憶が鮮明に蘇る。 強張った顔で、おっかなびっくりオオカミの背中に手を伸ばす私に始まって、にやけた顔でオオカミを撫でまわす私で写真は終わる。 最後の一枚は、少しだけ私の髪がぼさぼさだった。 「最後の、髪ぼさぼさになってるな」 「いや、プロデューサーのせいなんだけど」 私が言い返すと、プロデューサーは「そうだったっけ」なんて言って、とぼける。 ぼさぼさの理由は、あのとき「プロデューサーも撫でてみて」と私が促したら、どさくさに紛れて私の頭まで撫でてきたからだった。 2 : ◆TOYOUsnVr. 2017/08/22(火) 15:35:08.36 ID:ryn1QpcY0 ○ 「お仕事中に邪魔してごめん。もう行くね」 「ああ、これ、仕事じゃないよ」 「じゃあいつものだ」 「そう、いつもの」 “いつもの”。プロデューサーのパソコンには、そんな写真がたくさん入っている。 お仕事の合間だとか、移動中だとか、行く先々で撮った写真たち。 「また送ってよ」 「この前の?」 「うん」 「了解、送っとく」 言うや否や、プロデューサーはメールを送信してくれた。 「なんか、専属のカメラマンさんみたいだよね」 「カメラマンさんほど技術はないけどな」 届いたメールの中から一つのファイルをダウンロードして開く。 携帯電話の画面いっぱいに、ぼさぼさの髪とにやけた顔の私が映し出された。 「こんな表情の私を撮れるカメラマンさんは、一人しか知らないけどね」 べぇ、と舌を出して言ってやると、プロデューサーは照れ臭そうに「かもね」と言った。 3 : ◆TOYOUsnVr. 2017/08/22(火) 15:35:36.22 ID:ryn1QpcY0 ○ 「それより、プロデューサー、そんなことしてる余裕あるってことはもう上がれるの?」 「ああ、うん。珍しく」 「そっか」 「お茶してく?」 「してく」 「車で待ってて」 ぽーんと投げ渡された鍵をポッケにしまって、事務所を出た。 続きを読む