転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1502700435/ 1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/08/14(月) 17:47:15.16 ID:O2qgAIKjO 昼下がりのシーカーキャンプ。食事を済ませ一息ついた時、手袋に染みが付いているのに気付く。汁物が跳ねたのだろう。 手袋を脱ぎーー自分の手が露わになる。 「…………」 千人楔ーー遺物が無数に埋め込まれた醜い手。手の甲の楔をゆっくりと撫ぜる。 最初に千人楔を打ち込んだのはいつだっただろうか。余りに遠い過去で、もうよく思い出せない。 ただ、最初の一本目はアビスへの探究心がそうさせたのは間違い無い。これがあれば、より深く潜れる。深淵に近づく事ができる。そしてーーーー傷ついた。 そうこれは傷跡。アビスからの消せない傷なんだ。我ながら異形だな、と思う。捻れた頭皮に醜い体。喪失した心の何か。白笛と引き換えに失ったーーーー。 ーーその傷は、心折れようと奈落に挑み続けた不屈の証だ。 「……フフフ」 そういえば可笑しな事を言う奴もいたな。思わず笑みが漏れる。 「お師様……?」 「…………」 気付けばマルルクが不安そうな顔で私を見ていた。そりゃ1人で笑っていたら不安にもなるか。 2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/08/14(月) 17:48:09.40 ID:O2qgAIKjO 「……マルルク、お茶を持って来てくれ」 「は、はい……」 マルルクの後ろ姿を追いながらふと思う……そういえばこんな風に昔の事を思い出すのは久しぶりだな、と。 原因はどう考えてもこの前来たライザのガキ共のせいだが。 「そういやこの部分の楔は……」 まあだがたまには悪く無いかもしれない。昔を思い出すのも。 千人楔。私の遺物。ひと刺しで千人の力を得る一級遺物。 最初はそう。よりアビスに近づく為だ。元から力はあった。体格は恵まれていたからね。 けれど奥に潜る為にはもっと力を得ないと。本数はどんどん増えて行き……気付けば白笛さ。 ただーーーー本数が増える度に大事な物を失っていったが。 3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/08/14(月) 17:49:27.51 ID:O2qgAIKjO 頭皮は捻じ曲がり、心は人間性を失い……そして白笛を得る為にーー。 もう、戻れなかった。過去に戻る扉には無数の楔が打ち込まれでしまったんだ。 ……そんな時だったな。アイツが来たのは。 「動かざるオーゼン。本物の白笛だ。 なぁあんた私の師匠にならないか?」 探窟家というのは総じて頭がおかしいのが多い、というのが私見だ。特に深く潜る奴は。 だが、こいつは何だ? まるで異質。名をライザ。この、訳のわからない小娘は二度蹴っ飛ばしたのにも関わらず私の元へ来た。 続きを読む