転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1497648814/ 1 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/17(土) 06:33:34.86 ID:ND0MDh2u0 ガレージがある。 車があるわけではない。 そこにミニバンでも停めてあれば、俺は幾分か、気が休まるのかもしれない。 そのガレージにあるものといえば、よく分からん薬品の壜、無水エタノールの缶、その空き缶に詰められたレモンの種、よく分からん木、飲みさしのコカコーラ、ピザの空き箱、タバスコソースの空き壜、ミルク石鹸、ベット・ミドラーのアルバム……。 ゴミなのかどうか、判断の覚束ないものばかりだ。 それは、それらの所有者である一ノ瀬志希本人ですら判断できない。 彼女の対象への興味は、まるでザッピングをするかのように転々とし、放浪、漂流、しばしば行方知れずとなるのが常である。 そんなもんだから、彼女の所有物のいる、いらないの区別は、俺の担当業務となっている。 お片付け担当。なんと小学校のクラス当番然とした肩書き。 しかしながら、その業務は小学校のそれとはワケが違う。 初めのころは、必要なさそうなものを適当に選んで捨てていた。 後日、メモ用紙に書いた捨てたもののリストを志希に渡したところ、大層しょげた顔をしながら、 「そっか……あれ、捨てちゃったのか……」 などと口漏らし、 「海を見てくる」 と言ったきり、二日も帰ってこなかった。 今でも覚えている。及川牧場から持ってきた牛の糞。あれを捨てたのがまずかったらしい。 牛の糞からバニリンとかいう香料が抽出でき、及川牧場のソレは他のアレとは段違いの香りらしい。 分かるか、そんなもん。 2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2017/06/17(土) 06:34:24.20 ID:ND0MDh2u0 ガレージの掃除を行う曜日は、特に決めていない。暇があればやる。 ここ数週間はイベントの準備で忙しく、まったく掃除ができなかった。 今日はそのツケを清算するために、郊外にある志希の家まで車を飛ばしてきたのだ。 アイツのことだ、さぞかし散らかしていることだろう。 西日に火照らされた薄橙のガレージ。 朴の木の横にそれは佇んでいる。 おそらく、ガレージに志希はいないだろう。 眩い西日が志希の朝を告げるのだ。たいてい、この時間帯は外出している。 さっき、交差点でアジサイが咲いているのを見かけた。その匂いでも嗅ぎにでもいってるんじゃないかな。 はたまた、検討もつかない見知らぬ土地の、なんてことのない花の香り――――。 続きを読む