転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495486652/ 1: ◆OBrG.Nd2vU 2017/05/23(火) 05:57:32.80 ID:Z/tPWDqc0 ※ 勢いだけでSSに挑戦しました(人生初) ※ 独自設定解釈あり。 ※ 劇場版までのネタバレあり。 ※ 筆者は戦車知識皆無です。 2: ◆OBrG.Nd2vU 2017/05/23(火) 05:58:23.89 ID:Z/tPWDqc0 もうすぐ日付が変わろうとする時刻。 場所は、大洗町内のとあるバー。 そこは、若者向けの1次会向けな居酒屋ではなく、夜に飽き足らない者同士が勢いで入る2次会向けの居酒屋でもなく。 1次会で近況を報告し合い、2次会で在りし日のように散々バカ話を繰り広げた後に、ようやく心の奥底から込み上がる大事な何か。 そんな何かを、大の男二人が語り合うのに相応しい空間だった。 3: ◆OBrG.Nd2vU 2017/05/23(火) 05:59:14.10 ID:Z/tPWDqc0 カウンター上に置かれた小さな灯りを挟むようにして、二人の男が昔話に花を咲かせている。 片や、ノーネクタイのワイシャツ姿ながら、エンジンオイルの匂いを漂わせる無骨そうな男。 片や、パンチパーマという厳めしい髪型ながら、理髪店特有の芳香を漂わせる温和そうな男。 どうも二人は旧友らしい。 バーのカウンター内でグラスを拭く初老のマスターは、会話の内容からそう察することができた。 「まさか淳五郎にあんな表情をさせる友人がいるとはねぇ」 マスターは薄目をちょっとだけ開けて、男達の方に視線を向けた。 4: ◆OBrG.Nd2vU 2017/05/23(火) 06:00:20.97 ID:Z/tPWDqc0 マスターは男の片方を知っていた。 秋山淳五郎。 学園艦で理髪店を営んでいる男だ。 このバーがある界隈は居酒屋が軒を連ねており、学園艦が大洗港に入港すると、たびたび学園艦商店街の旦那衆らが酒を飲みに訪れる。 つまり、淳五郎はこの界隈の常連だった。 淳五郎は髪型がパンチなせいで見た目はアレだが、気さくな男だとマスターは思っている。 というのも、淳五郎はマスターの店に来るたび、決まって響12年のロックを手にしながら、ちょっと高めのテンションでマスター相手に世間話をするからだ。 話の内容は、理容業界のこと、学園艦での生活のこと、今日来たお客のこと、そんなとりとめもない話題が中心だったと、マスターは記憶している。 記憶している…というのは、ここ何年間か、淳五郎がマスターの店を訪れなくなったからだ。 理由はどうも、淳五郎の娘さんに関係しているらしい。 前回、淳五郎が最後に来店したとき、何かの拍子に娘さんの話になった淳五郎は、なぜか沈痛な面持ちを見せたのだった。 「いやあ、うちの優花里なんですがね、どうも友達がいないらしくて」 無理矢理笑おうとしながらグラスを握りしめる淳五郎の顔を、初老のマスターは忘れることができなかった。 5: ◆OBrG.Nd2vU 2017/05/23(火) 06:01:15.93 ID:Z/tPWDqc0 それから何年振りかの今日、淳五郎は一人の男と連れ立って、この店にやってきた。 久方ぶりに見た淳五郎は、実に晴れやかで、楽しげな表情をしていた。 マスターと久方ぶりに会ったというのに、淳五郎には臆する素振りなど微塵もなかった。 そして以前のようにカウンターの席に着くと、淳五郎はお決まりの響12年のロックを注文し、 もう一人の男は「芋焼酎…はいつも飲んでるから、俺も同じので」と言って、ジャケットを脱いで隣の席に置いた。 マスターが覚えている限り、淳五郎がこの店に来るときは、いつも一人だった。 誰かと連れ立って来たことはない。 ありがたいことに、淳五郎にとってこの店は、自分一人で来たくなる大事な店なのだろう…と、マスターは理解していた。 続きを読む