転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493429161/ 1: ◆TZIp3n.8lc 2017/04/29(土) 10:26:01.85 ID:++9plA0W0 モバマスのSSです デレステの泰葉のメモリアルコミュ一話をもとにしています 地の文多めです 2: ◆TZIp3n.8lc 2017/04/29(土) 10:27:10.42 ID:++9plA0Wo 「おはようございます。今日はよろしくお願いします」 撮影スタジオに入ると、私は撮影スタッフのみなさんに挨拶してまわる。 本当はひとりひとりに挨拶していきたいところだけど、準備に忙しくするスタッフさんたちの邪魔をするわけにはいかない。ひとかたまりになっているところに挨拶をしていった。 一人、隅っこに立っている人がいた。あの人が見学希望のアイドル部門の人だろうか。 スーツに着られているというほどでもないけれど、着こなしているわけでもない。 まだ若そうだけど、まるっきりの新人というわけでもないようだった。 ネクタイの結び方が甘いし、少し曲がっているのが気になる。忙しいのだろうか。 アイドル部門はここのところのアイドルブームで、アイドルも裏方もほしがっていると聞く。 見学というのも新人のそれではなく、現場を知ってより知識を得たいという欲求からきているのでは、というのが私の持った印象だった。 私は足をそちらに向ける。近づいていくと、目が合った。物怖じしない目だ。 まっすぐに私を見つめている。私は軽く会釈をしながら、側まで寄っていった。 「見学に来られたアイドル部門のプロデューサーさんですよね。よろしくお願いします」 軽く挨拶をし、一言二言交わした。若いのに落ち着いているな、と思ったら、元々私くらいの年頃の娘を相手にしているのだ。慣れっこだろう。 どうせまたモデル部門にアイドルをねじ込むための知識を得に来ているのだろう。 仕事を取られる身としては面白くないが、求められた者が出番を与えられるのがこの世界だ。文句を言ったところで何かが変わるわけじゃない。 私は私のできることをするだけだ。 3: ◆TZIp3n.8lc 2017/04/29(土) 10:28:05.45 ID:++9plA0Wo 撮影が始まると、アイドル部門のプロデューサーのことは頭の中から追い出される。 代わりに脳内を締めるのは撮影のことだ。 求められている絵。自分がどうファインダーに映っているのか。印刷されたカットがどう目に映るのか。 指示されたポーズを完璧にこなし、指示される前に表情を作る。 「さすが芸歴十一年目」 と、カメラマンさんが褒め言葉なのかよくわからないことを言う。 そうか、もう十一年目なのか。私が母に連れられて子役のオーディションに臨んだのは春のことだったように思う。 たしか、帰り道で満開の桜並木を通ったような記憶がある。 いえ、あれはオーディションに合格した後、子役として所属する契約などを受けに行った日だったかもしれない。 今年の桜の開花宣言はもうされてしまっている。だから、もうすぐ、ではなく、もう、十年が経っている。 子役をする前の記憶は、どれだけ思い出そうとしても、私の頭の中から見つけ出すことはできなかった。 4: ◆TZIp3n.8lc 2017/04/29(土) 10:28:42.85 ID:++9plA0Wo 「お疲れ様でした」 撮影はいつものように何事もなく終わった。私はスタッフさんたちに声をかけてまわる。 するとさっきのプロデューサーさんが、まだ同じ場所に立っているのを見つけた。 てっきり、最初だけ見学して帰るものだと思っていた。それなりに忙しいだろうに、わざわざ最後まで見学していたのか。 私はさっきと同じようにして、プロデューサーさんへと近寄っていく。 「お疲れ様でした。見学はいかがでしたか?」 気づいたことがあれば教えてください、と付け加える。 他の部門の目線というのは、専門外でありながらも、全くの素人ではないから参考になることも多い。 特に私と同じ年頃の女の子を相手にしているプロデューサーとあれば、どんな有意義なことが出てくるのだろうか、と期待したのだったが。 「楽しくなさそう」 続きを読む