小日向美穂「瞳を閉じないで、歩みを止めないで」

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転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493300062/

1: ◆XUWJiU1Fxs 2017/04/27(木) 22:34:22.80 ID:XPJyqG6Wo
総選挙だから担当のSSを真摯に書いた、それだけの話。





2: ◆XUWJiU1Fxs 2017/04/27(木) 22:35:52.19 ID:XPJyqG6Wo
 小さな頃からテレビの中で歌って踊って演技をしている彼女達のことが好きでした。虹のようにカラフルなステージの上に立つアイドルに時に励まされて勇気づけられて。

 授業で当てられるだけで緊張してしまう恥ずかしがりやな私が堂々とした彼女達に憧れを持つようになるのも、ごくごく自然な流れでしょう。

 それから高校生になって。色々な経験をして来ていつか薄れてしまうだろうと思っていた憧れは、色褪せるどころか徐々に徐々に強くなってきました。お昼寝をすればステージの上に可愛い衣装を着て歌っている自分と度々出会って。だけど変わらなかったのは恥ずかしがりやな自分も一緒。夢を夢で終わらせたくない、って強く言える勇気はまだ足りませんでした。

 ただ何もしないで熊本に居続けるのは、もっと嫌でした。頭ごなしに無理だと決めつけて『憧れ』から瞳を閉じて大人になっていくよりも、無理してでもちっぽけな勇気を振り絞ることを選びました。そうじゃないと、これから先もずっと同じことを繰り返しちゃいそうだったから。

「ね、ねえ、聞いて! お父さん、お母さん――」

 東京のアイドル養成所に入りたい、そう言った時の両親の顔は今でも覚えています。お父さんはすごく驚いたようで飲んでいたお酒を漫画みたいに吹き出してしまって、お母さんは神妙な顔つきで私を見据えていました。その瞳に映る私はどう見えていたのでしょうか。緊張のあまり小刻みに震えている姿がそこにあったはず。

 お母さんは少しの時間無言で私を見て、たった一言こう言ったのです。

『やっぱり美穂も、熊本の女ね』

『! うんっ』

 その言葉で、私の中の不安がスゥーっと消えた気がして。この時私は高い高い階段の一歩目を歩き出せたんです。



3: ◆XUWJiU1Fxs 2017/04/27(木) 22:37:33.93 ID:XPJyqG6Wo
 ダメで元々のつもりでいましたが、運良く養成所に合格出来た私は親や友達と別れて東京へと行くことになりました。学校の屋上からも見えない遠く遠く離れた場所にたった一人。お洒落な都会の中でお上りさんを炸裂してしまわないか、うまくやっていけるだろうかという不安が私に重くのしかかります。

「私は熊本の女だ……誰がなんと言おうと熊本の女なんです……」

「いや、美穂ちゃん。それは事実だからね」

 自己暗示のように熊本の女は強いと唱えても、やっぱり怖いものは怖いんです。もう二度と会えなくなるなんてことはないのだけど、今までそこにいて当たり前だと思っていた皆がいない世界というのが私には想像ができませんでした。

「東京じゃなくても、福岡にもあるんじゃないのかな? そういう、養成所的なのって。それなら熊本からでも……まぁ、2時間くらいかかるかもだけど」

「それは……思い切ってみた、のかな?」

「ふふっ、なにそれ。面白いね」

 友達の言うことはごもっともだ。そんな思いをするのが分かっていたのに、なんで東京に行こうとしたんだと言われてしまえば何も言い返せないわけでして。

「でも美穂ちゃんらしいかな。恥ずかしがり屋だけど結構大胆なことしちゃうしね」

「えへへ……」

 一方で、まだ知らない未来に期待している自分がいるのも紛れもない事実。不安と期待がシーソーみたいに揺れ動いて、どちらも日に日に大きくなっていきます。出発日にはもう何がなんだか分からない状態で、ここまで来ると却って冷静になれた自分がいました。



4: ◆XUWJiU1Fxs 2017/04/27(木) 22:38:40.84 ID:XPJyqG6Wo
「皆、見送りに来てくれてありがとうございます!」

 出発当日の空港には家族や友人達が見送りに来てくれました。さっきまで雨が降っていたけど私の心は雲一つなく晴れやかで。

「私たちはアイドル小日向美穂ちゃんの友達で、ファンだから!」

「美穂。辛い時はいつでも帰ってきていいんだぞ。そのときは父さんと、一緒に風呂に入ろうな」

「そ、それは……恥ずかしいよ……」

「美穂、貴女は熊本の女だから」

「最後まで諦めないよ、お母さん」

「ふふっ。それでこそ、私たちの娘ね」

 温かな言葉を投げかけてくれる友人や家族に応援されて、離れていても皆は確かにいる、背中を押してくれると強く実感しました。多分この時の私は世界の誰よりも幸せであったと自信を持って言えます。

「それじゃあ、行ってきます!」

 手を振る皆に別れを告げて飛行機に乗ります。雨上がりの空に浮かぶ虹に向かって飛ぶ白い翼。このまま私を、虹の彼方まで連れて行ってください――。




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