転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492916987/ 1: ◆7uGVQpzDpA 2017/04/23(日) 12:09:47.73 ID:WnTIuVfMo 零 一目見たとき、私の中で決まった。 この人は、私にとって必要な人だ。 私はバスタブに浸かりながら、 これからどうしていけばいいかを、考えた。 2: ◆7uGVQpzDpA 2017/04/23(日) 12:11:29.39 ID:WnTIuVfMo 1 ――どうしようもない、恋をしている。 3: ◆7uGVQpzDpA 2017/04/23(日) 12:16:52.82 ID:WnTIuVfMo 2 日野茜「おはよーございます! いやー今日も良い天気ですね!」 威勢の良い声とともに、事務所の扉が軽快に開く。 視界に映るのは、暖かい陽太のようなオレンジの髪色と、 本人の性質をそのまま表したような真っ赤なTシャツ。 そして、心地良く明瞭に響くその声は、目を合わせなくたって茜さんだと分かった。 P「おう、茜。今日も良い元気だな」 茜「はい! すこぶる元気です!」 茜「文香ちゃんも、おはよーございます! 今日も元気にファイアーしてますか!?」 鷺沢文香「茜さん、おはようございます。その、今日も元気です」 茜「それは良かったです! 文香ちゃんの声を聞くと元気が湧いてきますね!!」 ニコっと茜さんは屈託なく笑って、そんなことを言う。 相変わらず、ずるい笑顔だ。 茜「文香ちゃん、ぼーっとしてますがどうかしましたか? もしかして熱とかありますか!?」 ためらいなく、茜さんは私の前髪をかきあげて、額に手を当ててくる。 文香「だ、大丈夫です。少し考え事をしていただけですから」 茜「そうなんですか! ちょっと顔が赤くなってるように見えたんですが……!」 それは茜さんが触れたせいかも知れません――私は、心の声を閉じ込める。 P「茜の熱気に当てられたんじゃないか? まあでも、体調が優れないようなら、すぐに俺に言ってくれよ」 文香「は、はい。お心遣い、感謝いたします」 茜「さすがプロデューサーです!!! 頼りになりますねえ!」 P「そうだぞ。茜も具合が悪かったら……って、あまり想像はできないが」 茜「自慢じゃありませんが、ここ数十年は病気になったことはありませんよ! 元気だけが取り柄です!」 元気だけが取り柄なんて、そんなことはないですよ――こんな簡単な言葉ですら、せき止められてしまう。 茜さん相手には、特に「こう」なってしまう。 その理由は、私にはなんとなく分かってしまっている。 けれど、 確信は抱いてはいけない。 答えを出してはいけない。 疑い続けなければならない。 そうしなければ、茜さんに迷惑をかけてしまうから。 4: ◆7uGVQpzDpA 2017/04/23(日) 12:19:03.45 ID:WnTIuVfMo P「ところで、茜はどうしてこんな早くに事務所に来たんだ?」 茜「ゼッケンズのライブの打ち合わせですよ! でも、文香ちゃんはゼッケンズじゃないのに、あれ、……何かがおかしいですよ、プロデューサー!」 P「茜、1時間早い」 茜「あーーー、そういうことでしたか! じゃあ私、ちょっと走ってきても良いですか!?」 小さな体躯で、小刻みに腕を振り、足をバタバタとさせる。 そんな茜さんを見て、可愛らしいと思ってしまう自分がいる。 P「車と自転車には気をつけるんだぞ」 茜「はい! では、行ってまいります! 文香ちゃん、また後でゆっくりお話ししましょう!」 文香「はい。お気をつけて……」 嵐のように、という表現がここまで当てはまる人を、私は他に知らない。 そして、ここまで私と正反対な人も、出会ったことはなかった。 眩しい太陽のような人。 私には近付くことができない。 私は近付いてはいけない。 5: ◆7uGVQpzDpA 2017/04/23(日) 12:22:12.07 ID:WnTIuVfMo P「じゃ、打ち合わせの続きをするぞ、文香」 文香「……」 P「おーい、文香?」 文香「す、すみません。ぼーっとしてしまって」 P「もしかして、本当に体調が?」 文香「いいえ。……昨日は夜遅くまで本を読んでいたものですから、それで少し瞼が重いのかも知れません」 P「なるほど。まっ、夜更かしもほどほどにな」 文香「咎めないのですか」 P「好きなことをやめろなんて、言わないよ。人生は好きなことをするためにあるわけだし」 文香「人生は、好きなことを……」 P「まあ、それが難しかったりするんだけどな」 冗談っぽく、プロデューサーさんは笑って言う。 文香「それは……プロデューサーさんは、好きなことができていないということですか?」 P「そ、そんなことはないぞ。プロデューサー業なんて、まさに好きなことなわけだし」 一瞬、プロデューサーさんは言いよどんだけれど、私はそれ以上、追及しないでおいた。 続きを読む