転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490277609/ 1: ◆K5gei8GTyk 2017/03/23(木) 23:00:09.46 ID:cDFgnIFz0 地の文有りモバマスssです。 2: ◆K5gei8GTyk 2017/03/23(木) 23:01:11.61 ID:cDFgnIFz0 速水奏が体調不良を訴えたのは、午後三時のことだった。 心なしか覚束ない足取りでおれのデスクまでやってきて、同様に心なしか覚束ない口調で。 しんどいのかと尋ねれば、彼女は曖昧に頷いた。熱があるのかと尋ねれば、少し、と答えた。 彼女のスケジュールを確認すると、ラジオにゲスト出演する以外には、一週間ほど先まで生放送の仕事はなかった。 仕事に大きく影響しないことを確認すると、早速彼女を病院に連れていくことにした。 3: ◆K5gei8GTyk 2017/03/23(木) 23:02:18.11 ID:cDFgnIFz0 寒さのピークを越えたとはいえ、まだ肌寒い日もあるというのに、彼女の服装はかなり軽かった。 「どうしてそんなに薄着なんだ」 そう尋ねても、彼女は黙ったまま言葉を返さない。 取り敢えずおれのコートを着せた。 医者に診せると、彼女には典型的な風邪だという診断が下った。 暫くは暖かくして眠るように言われ、しおらしく彼女が頷いた。 三十八度五分。 それは、保護責任者として付き添ったおれに手渡された彼女の診断書に記載された、院内で計測した彼女の体温だった。 調剤所で解熱剤を処方してもらうと、すぐに彼女の家に向かった。 4: ◆K5gei8GTyk 2017/03/23(木) 23:03:44.28 ID:cDFgnIFz0 「うちの奏がご迷惑をお掛けしまして、申し訳ありません」 彼女を自宅まで送り届けてから、少しだけ彼女の母親と話した。 「滅相もありません。こちらの方こそ、もう少し早い段階で気が付くべきでした」 奏の症状が思っていたよりも重かったことに関してのことだった。 「いいえ、昔からあの子はああいう性格で、体調が悪くても誰にも言わないで隠していたんです。いつもひどくなってから病院に連れていくことが多くて」 「ほら、意地っ張りで不器用な子だから」 そう言って、彼女は懐かしむように笑った。 わかるような気がした。たしかに奏らしいといえば奏らしい。 それから彼女は少しだけ寂しげな表情を覗かせて言った。 「……これでも最近は結構、遠慮しないで甘えてくれるほうだったんです」 「奏さんが?」 「ええ。疲れた時に疲れた、しんどい時にしんどいって、私や主人に対しては、そう気兼ねなく言ってくれるようになってきたんですけど」 事務所に帰り着いて、奏に関しての諸々の手続きを済ませる。 その仕事の合間にも、おれは彼女のことについてずっと考え続けていた。 続きを読む